化粧品の全成分表示を眺めていると、「レシチン」「水添レシチン」「リゾレシチン」という言葉に出合うことがあります。どれも「レシチン」という共通の名前を持ちながら、実はそれぞれ異なる化学構造を持ち、肌への働きもひとつひとつ違います。
「なんとなく似たようなもの?」と思いがちですが、乳化剤として使われるもの、保湿成分として配合されるもの、有効成分の皮膚への浸透を助けるものと、その役割は多彩です。
この記事では、レシチン・水添レシチン・リゾレシチンの3つを構造・機能・配合目的の観点から比較し、それぞれの特徴をわかりやすく解説します。スキンケアの成分選びに役立てていただければ幸いです。
| 監修・編集責任者コメントコメント |
ナールスエイジングケアアカデミー・美容医療アカデミー 編集長 富本充昭 レシチン、水添レシチン、リゾレシチンはいずれもリン脂質由来の成分ですが、化粧品処方においては「乳化」「安定化」「浸透補助」という異なる役割を担っています。皮膚の角質層は脂質二重層構造を持つため、リン脂質系成分は肌との親和性が高く、化粧品の使用感や成分のなじみにも影響します。特に近年のエイジングケア化粧品では、単に有効成分を配合するだけでなく、それをどのように安定させ、角質層に届けるかという「処方設計」が重要になっています。成分表示を見る際には、有効成分だけでなく、こうした基剤や補助成分にも目を向けることで、化粧品への理解がより深まるでしょう。 |
3つの「レシチン系」成分の基本

1) レシチンを特徴づけるリン脂質とは何か
レシチン・水添レシチン・リゾレシチンはいずれも「リン脂質」と呼ばれる分子群に属しています。リン脂質は、親水性(水になじむ)の頭部と疎水性(油になじむ)の尾部を持つ両親媒性の構造が特徴で、細胞膜の主成分でもあります。
この両親媒性の性質によって、水と油を安定的につなぐ「乳化」の働きが生まれます。化粧品においてリン脂質が重宝されるのは、まさにこの特性に加え、皮膚の構造に近い成分であるため、肌との親和性が高い点も理由です。
2) なぜ似た名前で複数の成分が存在するのか
レシチンを原料に、水素添加や加水分解といった化学的な処理を行うことで、機能や安定性の異なる誘導体が生まれます。それが水添レシチンやリゾレシチンです。原料は同じでも、分子構造が変わることで化粧品中での役割が変わってくるのです。
レシチンとは

1) 由来と構造
レシチンは大豆や卵黄を主な原料として得られるリン脂質の混合物です。グリセロリン脂質を主成分とし、フォスファチジルコリン(PC)・フォスファチジルエタノールアミン(PE)・フォスファチジルイノシトール(PI)などが含まれます。
構造上、不飽和脂肪酸を含む2本の脂肪酸鎖を持っており、柔軟で広い乳化能を発揮します。一方で、不飽和脂肪酸の二重結合部分は酸化されやすいという性質もあります。
2) 化粧品での主な役割
乳化剤:水分と油分を均一に混ぜ合わせる乳化剤として幅広い処方に使用されます。
保湿・皮膚柔軟化:角質層に水分を保持し、肌をやわらかく整えます。
皮膚親和性:皮膚の細胞膜に近い構成であるため、肌へのなじみが非常によく、刺激が少ない成分です。
3) 向いている処方・肌タイプ
保湿クリームや乳液など幅広い製品で万能に活躍します。肌への安全性が高く、敏感肌やベビー用製品にも使用実績があります。ただし、酸化安定性が低いため、酸化しやすい油脂を多く含む処方では安定剤との組み合わせや保存管理が必要です。
水添レシチンとは

1) 「水添(水素添加)」とはどういう処理か
水添レシチンは、レシチンに水素添加(Hydrogenation)という化学処理を施した成分です。水素添加とは、不飽和脂肪酸の二重結合に水素を付加して「飽和」に変換する操作です。
この処理によって、レシチンの弱点である酸化しやすさが大幅に改善されます。飽和脂肪酸に変わることで、温度変化や光・空気による劣化に強くなるのです。
2) 化粧品での主な役割
高安定な乳化剤:通常のレシチンと同様に水と油を乳化しますが、製品の保存安定性が高まります。
酸化安定・長期品質保持:酸化しやすいアルガンオイルやローズヒップオイルなど不安定な油脂を配合する製品での使用に適しています。
保湿補助:レシチン同様、角質層への水分保持効果も期待できます。
3) 向いている処方・肌タイプ
高機能オイル美容液、エイジングケアクリームなど、酸化しやすい素材を用いた処方で特に力を発揮します。製品の品質を長期間安定させたい場合に、処方開発者から積極的に選ばれる成分です。
リゾレシチンとは

1) 加水分解で生まれる成分
リゾレシチンは、レシチンに酵素(ホスホリパーゼA)を作用させる、または加水分解処理を行うことで生まれる成分です。通常のレシチンが2本の脂肪酸鎖を持つのに対し、リゾレシチンは加水分解により脂肪酸が1本外れた「lyso(溶解)型」の構造を持ちます。
2) 化粧品での主な役割
浸透促進剤:最大の特徴は、他の美容成分の皮膚への浸透を助ける「浸透促進作用」です。脂質二重層に作用し、角質バリアを一時的に柔軟化させることで有効成分が角質層へなじみやすくなるようサポートします
乳化補助:乳化剤としての機能も持ちますが、単独よりも他の乳化剤を補助する形で配合されることが多いです。
界面活性効果:界面活性能が比較的高く、洗浄系製品への配合も見られます。
3) 向いている処方・肌タイプ
ビタミンC誘導体やレチノール、ペプチドなど「より深く届けたい」有効成分を含むエイジングケア処方、美白処方、高機能美容液に適しています。浸透促進効果が高い分、配合濃度や組み合わせ成分によっては刺激感が出るケースもあるため、敏感肌の方は使用感を確認することが大切です。
3つの成分を比較
1) 比較一覧表
| 比較項目 | レシチン | 水添レシチン | リゾレシチン |
| 由来・製法 | 大豆・卵黄など 天然原料から抽出 | レシチンに水素添加 して安定化 | レシチンを酵素・ 加水分解で改変 |
| 化学的特徴 | 不飽和脂肪酸を含む リン脂質 | 脂肪酸が飽和化 (二重結合なし) | 脂肪酸が1本外れた 構造(lyso型) |
| 主な機能 | 乳化・保湿・ 皮膚柔軟化 | 乳化・酸化安定・ 保湿 | 浸透促進・ 乳化補助 |
| 酸化安定性 | 低め | 高い | 中程度 |
| 皮膚浸透性 | 普通 | 普通 | 高い |
| 主な配合目的 | 万能ベース乳化剤 保湿補助 | 高安定処方・ 長期品質保持 | 美容成分の 浸透補助 |
| 向いている処方 | 一般保湿・ 多用途 | 酸化しやすい 油脂を含む処方 | エイジングケア・ 浸透重視処方 |
2) どんな肌悩みに向いている?選び方の目安
①乾燥肌・バリア補修重視の方
レシチン配合の保湿アイテムが最適。肌へのなじみがよく、刺激も少ない。
②高機能オイルを使いたいが酸化が心配な方 →
水添レシチン配合の製品を選ぶことで、成分の安定性と保湿効果を両立できる。
③美容成分をより深く届けたい・エイジングケアに力を入れたい方
リゾレシチン配合の美容液や高機能クリームが有効。
レシチン系3成分配合のナールスのエイジングケアシリーズ
ナールスのエイジングケアシリーズでは、こうしたリン脂質系成分の特性を活かし、保湿・安定化・成分なじみの設計を考えた処方が採用されています。
レシチン・水添レシチン・リゾレシチンはそれぞれ「乳化」「安定化」「浸透補助」といった異なる特徴を持つリン脂質系成分です。実際の化粧品処方では、こうした特性を活かしてスキンケアの目的に応じて配合されます。
ナールスのエイジングケアシリーズでも、目的に合った配合をしています。
1)レシチン配合「ナールス リジェパーフェクトマスク」

レシチンは肌との親和性が高く、角質層のうるおい環境を整える保湿サポート成分として知られています。
ナールスリジェパーフェクトマスクでは、シートマスクとしての密着感と保湿環境を高める処方の一部として活用されています。肌をやわらかく整えながら、美容成分が角質層へなじみやすい状態をサポートします。
2)水添レシチン配合「ナールスネオ」

水添レシチンは酸化安定性に優れ、化粧品の品質保持や乳化安定に寄与する成分です。
ナールスネオでは、ペプチドなどの美容成分を安定的に配合するための処方設計の一部として採用されています。肌なじみのよいリン脂質構造により、うるおいを与えながらエイジングケア成分を角質層へ届けるサポートを行います。
3)リゾレシチン配合「ナールスユニバ」

リゾレシチンは、他の美容成分の角質層への浸透を助ける性質を持つリン脂質です。
ナールスユニバでは、この特徴を活かし、ビタミンC誘導体などの美容成分が肌になじみやすい処方設計の一部として活用されています。肌環境を整えながら、日々のスキンケアの効果をサポートします。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 成分表示に「レシチン」と書いてあれば、水添レシチンやリゾレシチンとは区別できますか?
はい、区別できます。「全成分表示は、エイジングケア化粧品の理解を助ける!?」で詳しく解説していますが、日本の化粧品では、配合成分を全成分表示として記載することが義務付けられています。「レシチン」「水添レシチン」「リゾレシチン」はそれぞれ別の成分名として表示されます。全成分表示を確認すれば、どの種類が配合されているかを把握できます。ただし、複数のレシチン類が同時に配合されていることもありますので、全成分をまとめて確認する習慣をつけると成分理解がより深まります。
Q2. レシチン系成分は敏感肌でも使えますか?
一般に、レシチンは肌細胞の膜成分に近い構造を持つため、3つの中でも特に肌への刺激が少ない成分として知られており、敏感肌やベビー用品にも広く使用されています。水添レシチンも同様に肌親和性は高い成分です。
一方、リゾレシチンは浸透促進作用が強いため、浸透を助ける有効成分の種類や配合量によっては、敏感肌の方に刺激感が生じるケースがあります。新しい製品を使い始める際はパッチテストを行い、肌の状態を確認しながら取り入れるようにしましょう。
Q3. 水添レシチンは「水素添加」だから人工的で心配、ということはありますか?
水素添加は化学的な処理ですが、最終的に得られる水添レシチン自体は化粧品成分として安全性が評価されており、幅広い製品に配合されています。天然由来のレシチンを出発原料とし、酸化安定性を高めるための加工であることから、「安定化した植物由来リン脂質」として捉えていただくと理解しやすいでしょう。もちろん、肌との相性には個人差があるため、気になる場合は使用前にパッチテストを行ってください。
まとめ
レシチン・水添レシチン・リゾレシチンは、同じリン脂質ファミリーに属しながらも、製法・構造・機能がそれぞれ異なるユニークな成分です。
レシチンは万能な乳化・保湿成分として幅広い製品に使われ、肌への親和性が高く刺激が少ない信頼の成分です。
水添レシチンはレシチンに水素添加を施すことで酸化安定性を高めた成分です。高機能オイルを含む処方の品質を長期間保つことに優れています。
リゾレシチンは加水分解によって生まれた成分で、浸透促進という独自の機能を持ち、有効成分を深部へ届けるエイジングケア処方で活躍します。
化粧品の全成分表示を読み解く力は、自分の肌に合った製品を選ぶうえで大きなヒントになります。
「なんとなく似ている成分」と思っていたものにも、それぞれの役割と個性があります。ぜひ今後のスキンケア選びに役立てていただければ幸いです。
参照論文
PMID: 24482779 PMCID: PMC3867246 DOI: 10.3797/scipharm.1305-11
日本語要旨:卵黄レシチン由来と大豆レシチン由来で調製した外用リポソームについて、pH・粘度・表面張力などの物性、レシチンの組成(質量分析)、モデル成分(カフェイン)の封入率やゼータ電位、膜流動性を比較した研究です。両者でカフェイン封入率は概ね同程度で、一定温度域では膜流動性への影響は大きくないことが示されました。外用用途におけるレシチン起源の違いが、製剤物性や皮膚適用時の特性選択に関係しうる点を示唆。
【2】Bae DH, Shin JS, Shin GS, Jin FL, Park SJ. Effect of lecithin on dermal safety of nanoemulsion prepared from hydrogenated lecithin and silicone oil. Bull Korean Chem Soc. 2009;30(4):821-824.
DOI:10.5012/bkcs.2009.30.4.821.
日本語要旨:水添レシチンとシリコーン油を用いたナノエマルションを調製し、界面張力、粒径、ゼータ電位、摩擦力、皮膚表面の水分指標、そしてパッチテストによる皮膚安全性などを評価した研究です。水添レシチン系ナノエマルションは、一般的なエマルションと比べた物性差が示され、パッチテストでは安全性上の問題が少ない(ゼロ反応)結果が報告されています。水添レシチンが「安定化」や「使用感設計」に寄与しうる根拠。
PMID: 1787222 DOI: 10.1111/j.1346-8138.1991.tb03126.x
日本語要旨:無毛ラット皮膚に放射標識したLPC(リゾホスファチジルコリン)を外用し、表皮・真皮への移行量を時間経過で測定、対照としてPC(ホスファチジルコリン)とも比較した研究です。LPCは少量ながら皮膚内へ移行し、皮膚構造を顕微鏡的に損なわないこと、さらに皮膚内で複数の脂質へ分解されることが示されました。リゾ型リン脂質の「なじみ・移行・バリアへの作用を議論する」際の基礎的根拠。
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